【お釈迦様の手】国際支援を達成するマインド

これは、私のかつて所属したあるNGOでの体験談です。

Aさんという専門家が日本から派遣されてきました。

その道35年の専門家であり、プロフェッショナルです。

意気揚々とやってきたAさんは、所属先の部署で、現地従業員に対して、自分の思いをぶつけるべく、

「ああした方がいい。」

「そうしなければだめだ。」

と指示をしました。

毎日職場に通うAさんは、自分の責務を果たそうと一生懸命計画を練り、支援プランを考えました。

もちろん、カンボジアの将来の人材育成を考えてのことですが、そのうち、現地の人々は、彼のいる場所に近寄らなくなりました。

食事会に誘っても、誰も出席しません。

任期は2年でしたので、普通の感覚では、このような周りから総スカンを食らったような状態に身を置くことは精神的に耐えられないと思います。

専門家であったAさんの言っていたことに間違いはなかった。
でも、結果的に現地の人々には受け入れてもらえなかった。
この方の活動は、こうして空振りに終わったのです。ご本人はどう思っているかは私の知るところではありませんが、どこから見ても、これは失敗例だとわかります。

 

この事例から、みなさんは何を教訓にされますか。

そう。

日本のものを押し付けるのは、支援とは言わないのです。

支援・・・支え、援助する。

手を貸すイメージでしょうか。

わたしは、支援というと、いつもお釈迦様の手をイメージします。

 

お釈迦様は、いつも天上から人間の世界を見ています。ある時、ふと下界に目をやると、男の荷車が、ぬかるみにはまって動かなくなっています。

周りには、誰もいません。

男は、自分でやるしかないと思い、渾身の力を込めて荷車を引きました。

そのとき、お釈迦様は見えない手でポンと押しました。すると、荷車はぐわっとぬかるみを抜け、男はふうっと一息ついて、また自分一人で荷車を引いていきました。

お釈迦様は「私が押したのですよ」とは言いません。

なぜなら、男が自分の力で成し遂げたという達成感を持てませんし、困ったときにまた助けてもらえると思ってしまうからです。

 

この見えない手こそ、支援だと思うのです。

 

自分中心
押し付け
唯我独尊

こういった独りよがりのマインドは、支援の現場を崩壊させます。

 

次の3ステップが、うまくいくためのヒントです。

①相手の持っているものは何か。・・・じっくりと耳を傾ける、向き合う、観察する、共感する。

②相手は何を必要としているのか。・・・親身になる、理解する、本質を見抜く。

③自分がやって見せ、相手にやらせる。・・・いいと思わせる、効果を見せる、役に立つと感じてもらう。

 

自分ごとで恐縮ですが、私はNGOを立ち上げると同時に、あることを決意して実践しました。

それは、

一般カンボジア人の生活の中に入り込むこと

でした。

周りは、工場労働者や低所得労働者ばかり。

冷蔵庫、温水器、洗濯機もない部屋で1年間過ごしました。

ですから、水シャワーを浴び、手洗いで洗濯をする・・・、それが、私のスタートだったのです。

生活の中で日本人と接することはほとんどなく、現地の生活に溶け込み、人々の生活スタイルやものの考え方を知ることができたと思っています。

そこで、①の土台を築きました。すると、自然と②が見えてくるんです。そしたら、③で、自分の専門家としての力をスムーズに活用できます。

 

専門家ですから、できるのは当たり前。それをどのようなマインドを持って、どのようにして伝えるのかが最も支援で問われるところです。

主役は現地の人々、支援者はわき役に徹しなくてはなりません。

 

世界中どこでもそうですが、とりわけカンボジア人は、プライドが高いと言われます。

人前で怒鳴ったり、怒ったりされることを極度に嫌います。

不当に解雇されたドライバーが、家に火をつけたなんてこわい話をよく耳にするのもこのことから来るものです。

日本の駐在員さんたちは、現地従業員をみんなの前で叱ったりすることはご法度だと赴任前に必ず指導を受けます。

 

私は、先にあげた専門家の失敗の背景には、

上から目線でカンボジアを見下ろしている

そういった潜在的に働く心があると思います。

そこには、常に、

日本が上、カンボジアは下

日本は先進国、カンボジアは途上国

こういった思い上がったマインドが見えます。

支援と言うのは、人と人が同じ目の高さで向き合い、力を合わせて、ものごとを成し遂げることです。そして、達成した喜びを共有するものです。

そこには、上も下も、高いも低いも、金持ちも貧乏もありません。

支援活動とは、心と心が絆で結ばれていく作業です。そして、心からの感謝の気持ちで満たされるものです。

世界は、常に変化し続けています。

私は、日本の教育現場で教えている発展途上国と言う表現をもうやめにした方が良いとさえ思います。

学生たちやお若い方は、純粋に支援に関わりたいという方がほとんどで、そのような心持ちの方は少ないのですが、特に年配者に上から目線の方が多いように感じられます。

経験が阻害するとでも言いましょうか。

柔軟性に欠ける思考とでも言いましょうか。

自信を持っていることはプラスに働くように活用すべきで、自分のやり方を押し付けたり、プライドを支援現場で主張し自分だけが満足することは、そもそもの目的ではないんです。

お釈迦様の手

このマインドで現地の人々に接すれば、必ず、

もっとこの国にいてほしい

と思ってもらえます。

それが、

まだ、この国にいるの?

では、あまりに寂しいと思いませんか。

 

以上、私のある支援現場での体験を書かせていただきました。

こちらにお越しになる方は、良いマインドに磨きをかけて持ってきてください。

それが、国際支援を成功させる秘訣です。


最後まで、お読みいただきありがとうございました。

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